農業と食料のイノベーション分野における世界屈指の情報会社、
「Agfunder」のレポートによると、2020年のこの分野における
イノベーションの率先力および飛躍的進歩があった国ベスト5に
イスラエルが選ばれています。
Vanilla Vidaのように農家発のスマート農業栽培を主とする
スタートアップや、Aleph Farms, Super Meat, MeaTech 3D,
Future Meat Technologiesなどの培養肉のスタートアップや、
ドローンから農薬量およびかん水量を導き出すAgroScoutなど多
種多様なスタートアップが興っています。
(参考:
ではなぜイスラエルでこのような活気あふれる
農業スタートアップが急成長を遂げているのでしょうか。
日本がイスラエルから学べることはあるのでしょうか。
オーストラリアとニュージーランドのデロイトが2018年に
まとめたイスラエルのアグリテック視察レポートをもとに、
イスラエルという国がもつ5つのキーポイントを見ていきたいと思います。
(参考:
)
イスラエルが1948年に建国されたころ、限られた天然資源しかなく、
西洋の栽培方式に合わない乾燥気候であることなどもあり、農業の
発展への障壁は簡単に克服できるようなものではありませんでした。
ところが、イスラエルはこの状況に臆せず、人材への投資を
惜しみませんでした。世界の数学と科学の試験において
イスラエルは決して高い成績を残していません。
しかし、成績にこそ表れませんが、若い世代が逆境にあっても
リーダーシップを取るイノベーターや起業家になるよう促す教育に
イスラエルは力を入れています。この結果、砂漠での農業、かん水システム、
水の再利用や海水淡水化の技術で世界を牽引しています。
イスラエルの人々は文化的にリスクを恐れません。
そしてイスラエル政府は失敗を恐れないこの文化を育み、失敗しても
再び立ち上がることを支援する共同体を作り、最終的に
成功へとつなげるシステムを作りました。
イスラエルは移民の国です。東ヨーロッパ、旧ソ連、エチオピア、フランス、
北アフリカ、スペインなど様々背景を持った人々が集まり
イスラエルをなしています。この移民の精神は、起業の精神と無関係で
なく、ヘブライ語で「ヨズマ」と呼ばれる「とにかくやってみよう」
という心意気と合致します。
またイスラエル起業家たちが「フツパ―」(厚かましいほどの大胆不敵さ)
をもって、自分たちのアイデアを押し通していくことができるのは、
それが失敗してもまたやり直すことのできる機会と共同体を
生み出すことを知っているからです。
またイスラエルの破産手続きはほかの先進国に比べて
煩雑でなく、起業家たちが育つ環境が整えられているといえます。
最後に社会的な交流の場がビジネスのつながりともなる
「キブツ」があります。キブツは社会主義とシオニズムの
思想から生まれた理想郷的共同体で、社会を安定させるために、
農業、土地をともに耕すことに重きをおいていました。
イスラエル人の協力への思い、目的を共有することへの心持ちなどに
「キブツ」の精神は今日も受け継がれています。
アグリテックの分野においては、Israel Innovation Authority (IIA)の
ような政府機関が、インキュベーターや大学、キブツなどと連携を
取り合って、イノベーションを推し進めています。
天然資源に乏しいイスラエルは民間のR&DにGDPの4.1から4.25%を
割いています(EU1.9%、アメリカ2.79%)。
また1993年に政府は「ヨズマグループ」(上記の率先性の意)という名前の
機関を設置することで、ベンチャーキャピタル投資ファンドに
積極的に投資し、投資の保険や税率の補助などを通して
外資を引き寄せました。その結果同国のベンチャー資本支出は1991年の5800万ドルから
2000年の33億ドルにまで跳ね上がりました。
それに加え、大学との提携にも目を見張るものがあります。
まずイスラエルには9つの国立大学がありますが、それぞれの専門性が
明確であり、国内での無益な競争が避けられます。次に、イスラエルの
大学は新しいアイデアに協力的であり、教員がスタートアップを
始めたとしても、教職をあきらめる必要はありません。
最後にYeda Research & Development Co. Ltdや
Yissum Research Development Companyのような会社が
ワイズマン研究所やヘブライ大学などの知的財産を商業化する
独占的権利を持っており、研究所から市場へと効率よ
く運び出されるシステムが出来上がっています。
イスラエルでは男女ともに兵役を全うする義務があります。
このことが起業家文化に与えた影響は少なくありません。
まず、安全保障に関する技術が高くなります。
次に軍でなされていた研究が民間にもたらされ、イスラエル国防軍の
諜報や技術機関出身のエリート研究者たちが
スタートアップを起こすことも多々あります。
また兵役を終えた後の予備役のシステムも興味深いです。
イスラエル人は兵役を終えた後、緊急事態などの場合に備えて、
予備役の訓練を定期的に受けます。このこともあり、若者が
年配者を指示する状況もあり得るイスラエルでは、
上下関係が特にありません。つまり退役軍人たちからなる、フラットな
関係性の共同体が形成されており、軍からの技術が民間の市場に
送り出すのを助けています。
前述のとおり、イスラエルは移民国家です。70以上の国々から移民を受け入れ、
様々な技術や才能を持った人材を吸収してきました。
移民の方々はリスクを恐れません。それに加えて、イスラエルでは
ノウハウとテクノロジーを輸出できる技術系企業を政府が
支援するエコシステムが構築されています。
イスラエル国内の市場は限られており、産業がグローバルな
視点を持つ必要が最初からあった故です。国際的な
市場を意識していたことにより、現在イスラエルは
ブランド化に成功し、その好循環が続いています。
このレポートの最後では、「いかにオーストラリアと
ニュージーランドがイスラエルから学べるのか」という
問いで締めくくられています。
この質問は私たち日本人も熟慮せねばならない質問ではないでしょうか。
sunhope mailmagazine vol.26
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